2011年10月24日月曜日

10/24 ラグビーワールドカップ 決勝戦 オールブラックスvsフランス観戦記

 ついにオールブラックスが念願の優勝を果たしました。この優勝への道のりが最後までこれだけ厳しいものになることを誰が予想したでしょう?フランスがこれだけ強いゲームを見せるなんて誰が期待していたでしょう?
そして誰にもゲーム中にはもしかしたらまた07年の悪夢が再来するかも??という思いも抱いたことだと思います。だから誰もがTV画面に向かってでもオールブラックスへの声援を思わず口走っていたと思います。

 私が見ていたTV3のラグビー中継ではベテランであるはずのコメンテイターでさえ、アンディー・エリスがボールをサイドラインに蹴り出して優勝が確定したところで涙声になっていましたが、誰もがゲーム前にはオールブラックスが快勝して優勝するはずと思っていたでしょう。ラグビー関係者やヨーロッパのブックメイカーでさえ20点差ぐらいは付く予想がされていたのに、いざゲームが始まれば80分間の中でその期待、信頼も揺るいだことと思います。けれどオールブラックスが勝利に向けて戦う姿に誰もが後押しをしたくなり、声援を送りたくなるそのプレーに最後は感動したはずです。ニュージーランドの人にとっては至上の瞬間がついに訪れたことになりました。

 フランスは本当に強いゲームを見せました。恐らく本当に初優勝を狙っていたと思います。このニュージーランドで行われているワールドカップにおいて敵地真っ只中にもかかわらず、周りはオールブラックスサポーターで溢れ、フランスへの期待がほとんど外部からは聞こえてこない状況でさえ本気で勝つためのゲームを見せたのはやはりフランス人気質なのでしょうか?逆境に陥れば陥るほど力を倍増して発揮してくるところは敵ながら天晴れというしかありません。

 その意気込みがゲーム始まる前から分かりました。この日のハカはオールブラックスはまたもやカパ・オ・パンガでしたが、このハカにオールブラックスが入る前にフランスはキャプテンを先頭にV字体型で並び、ハカが始まるとセンターラインに向けてオールブラックスのハカへと歩み寄ってきます。今はIRBから10m以上離れることが指導されていてそれ以上は両軍が近寄れないことになっていますが、07年のワールドカップの準々決勝ではフランスが同じようにセンターラインまで出てきて、オールブラックスもハカをフランスチームの目と鼻の先で行う事が見られました。このゲームがニュージーランド国民にとってこの4年間トラウマとして残るものになっているのですが、その再現をこの決勝戦でも見せられるかも知れない想いが少しよぎったのは確かです。

 そしてゲームが始まるとオールブラックスのこれまで見せてきた早い展開、フォワード&バックス共にそろって見せるランニングラグビー、連続アタック、そしてキックゲームが封じ込まれます。お互いがテリトリーを奪うことに前半は焦点をあわせ、キックボールで相手陣地に入る戦法、そしてボールを展開する相手に強力で確実なデフェンスを仕掛けることが見られます。ラック、モールからの球出しもお互いスピードに欠けます。お互いが敵地に入るとボールを保持してミスを誘うような硬いゲームになります。

 そしてそのミスを2つ連続して犯したフランスからペナルティーをもらったオールブラックスは4分に最初の得点のチャンスが訪れます。このゲームまでにはすでにダン・カーターに代わり救世主として取り上げれているピリ・ウィープのキックに期待が寄せられますが、左サイド、フランス陣地12mほど入ったところからのキックは左へと外れていきます。これは良くないことがこの後起こる兆候の表れか?

 この後両軍はボールを展開しては強力デフェンスタックルに阻まれ前進できず、キックボールでやむなくサイドラインに蹴り出すことを繰り返します。この強力デフェンスタックルに特にフランス側には負傷者が出始めるのですが、まず10分にマアア・ノヌの突進を止めに入った仏10番、キッカーのモーガン・パラがクラッシュで頭を強打。倒れこみ一旦ベンチに下がり21.FrancoisTrinh-Ducが出てきます。これはフランスにとって悪い兆候。

 この後お互いがサイドラインに蹴り出してはラインアウトからまた前進を始めることが繰り広げられますが、14分に自陣10mライン付近のフランスラインアウト後にフランスのキャプテン6.ThierryDusautoirがボールを取ったところにABキャプテン;リッチー・マッコウがタックルに入リ、このボールを6.ThierryDusautoirがボールをリリースしなかったことからペナルティーとなり、ピリ・ウィープはそこから大きくボールを蹴りだしフランスゴールライン手前9mの右サイドラインからのラインアウトに変わります。

 このラインアウトがそれまで繰り返されてきたABボールのラインアウトの中では最もフランスゴールラインに近いものとなりました。ここでオールブラックスは見事にセットプレイの練習の成果を決めます。ケビン・メアラムが投げ入れたボールはラインアウト後方でリフトされたジェロモ・カイノの胸元に届きます。これをカイノは少し体勢を崩しながらも片手でボールが飛んできたサイドライン側の真下に投げ落とします。ここにラインアウトサイドラインアウト側でリフトアップしていたトニー・ウッドコックが走りこんできます。相手フランス側のラインアウトは前と後ろの2箇所に別れてリフトアップしていたためその真ん中はぽっかりと誰もいないスペースが出来てしまっていました。ここにボールが投げ下ろされ、ここにタイミングよく走りこんできたウッドコックがボールを受け取るとその前にはゴールラインまで誰もいない状態になり、ウッドコックはしっかりとボールを抱え込んだままインゴールにダイブしてトライとなります。作戦大成功!!

 けれどこの後のコンバージョンをウィープはまたも右に外してしまい得点は5-0となります。オールブラックスに少し不安が残ることになりましたが、フランスにとってもこの後あまり良いことは起こりません。頭を強打して一旦ベンチに下がった後再びピッチに戻っていた
モーガン・パラが21分には再びピッチに倒れこみ21.FrancoisTrinh-Ducと交代することになりました。この21.FrancoisTrinh-Ducが本来フランスにとってはレギュラー10番だったのですが、この大会でキッカーとしての信用が無くなりズット使われなかったのです。

 こんな硬いゲームではやはり頼れるキッカーがチームにとっても強力な支えになるのですが、フランス側が頼りにしていたキッカーモーガン・パラが21分にいなくなかったことはABにとっては大きなことだったのですが、この後ABにもその不幸が連続して訪れることになります。26分に再びブレイクダウンでフランスペナルティーを得るのですが、このフランス陣地22mライン手前右からのキックをピリー・ウィープは蹴った瞬間にFxxxと叫んで後ろを向いてボールが外れるのを見ること無いほど大きくゴールポストからは外します。これで誰もが今日のウィープはキッカーとしてはダメ!この後はクルーデンに代わることを思ったでしょう。

 これでピリ・ウィープがこの日のヒーローになることはなくなりました。しかしこの後ドラマはまだまだ続きこのゲームでヒーローになるべきものがこの後続々と脱落していくのです。その候補者だったクルーデンがなんとこの後怪我をしてしまうのです。33分にABがアタックに入ってクルーデンが相手デフェンスラインをステップで抜けようとしたとしたところに21.FrancoisTrinh-Ducがタックル。ここでクルーデンは右ひざを強くひねり倒れこみます。そしてベンチに下がることになるのですが、ここでベンチから出てきるのは21.ステファン・ドナルド。ここでABサポーターからはなんとも言えない歓声、どよめきの声が上がります。

 ドナルドは昨年のオールブラックスがワラビーズに負けた香港でのゲームの主要人物で、そのとき以来オールブラックスには選ばれなくなって、ダン・カーターとコリン・スレイドが怪我でいなくなったときにAB召集の電話を受けたのはこの時期多くの人が楽しむホワイトバイト漁をしにビールを数本持ってワイカト川に出かけていたのです。その合同練習も、そして本格的なラグビーゲームも2ヶ月ほど遠ざかっていた、信用をなくしていたドナルドが最後の頼みとしてこの舞台に登場したのです。誰もがわずかな期待と大きな不安を抱いたことでしょう。ここに来てダン・カーターがいなくなったことが大きく響くようになりました。

 そしてフランスにとってもヒーローになるべく出てきた21.FrancoisTrinh-Ducもそのチャンスをつかみ損ねます。34分にフランスがラインアウトからのボールをバックスに展開しながらもABラインでフェンスを崩すことが出来ないと見ると21.FrancoisTrinh-Ducはドロップゴールを試みますが、これを大きく外します。しかし彼はキックはダメでしたが、カウンターアタック、そしてデフェンスタックルには大きな役目を果たします。前半終了前には自陣Carあ見事なカウンターアタックを見せAB陣地22m前まで駆け上がりフランス得点のチャンスを作り出します。しかしこれもABの硬いデフェンスに阻まれ前半はこのまま5-0で終わります。

 この時点でこんなにオールブラックスが得点するのに苦しんでいる姿を見て不安になり始め、後半のフランスの逆襲が怖くなってきました。その後半もワールドカップ決勝戦にふさわしい激戦とドラマが待っていました。

 まず後半始まった直後にドタバタと連続してそのドラマが見られます。まずフランスはAB陣地に攻め込みラックでマッコウのペナルティーを誘い、早速得点のチャンスが訪れるのですが、22mライン手前という近距離だったのでこのキックは当初怪我の為キッカーでは使われないだろうと言われていた9.DimitriYachviliが出てきます。彼はこれを左サイドからのキックだったのですが、ゴールポスト右へと大きくスライスさせて外します。

 その後今度はABラインアウトからのラックでフランスがペナルティー。場所はフランス陣地ほぼ中央の左よりサイド。ここでABは当然のごとくキッカーとしてステファン・ドナルドが出て来るのですが、彼は多くの人の期待と不安を全く気にしていないような感じでいつものスタイルでこのペナルティーキックを見事ゴールポスト真ん中に決めます。この3点はこの後のことを考えるととてもとても重要な得点となります。

 オールブラックスのサポーターが後半初めて盛り上がったのもつかの間フランスはこの直後に形勢を見事に逆転させます。46分にフランスのキックオフでゲーム再開するとピリ・ウィープはキックでボールを高く蹴り上げます。このボールは誰も上手くキャッチできずAB側にこぼれたところにイスラエル・ダグが駆け込みボールを拾ってカウンターを仕掛けます。彼はデフェンスタックルでセンターライン上で止められるのですが、ブレイクダウンでボールがラックからピリ・ウィープの足元にこぼれ出ます。これに対して21.FrancoisTrinh-Ducがすばやく反応。ボールを拾いに出てくるところをウィープは横にいるマアア・ノヌに地面のボールを蹴って送ろうとしますが、このキックボールが21.FrancoisTrinh-Ducが出てくるところと重なり、パスインターセプトのようになってFrancoisTrinh-DucはAB陣地深くに走りこむことになります。彼にはデフェンスタックルが襲い掛かりますが、ボールは9.DimitriYachviliに渡り、あっという間にABゴール手前までフランス軍はなだれ込みます。これに対してゴール手間でABデフェンスは食い止められることが出来、そのラックからの展開もスピードを緩めることに成功したのですが、フランスはゴールライン手前でのラックで一旦バックスのラインを整わせてから再アタック。このラックからのボールが展開され2人目になるキャプテン6.ThierryDusautoirがボールを受けるとゴールポストに向け走りこみ、横から襲うマアア・ノヌのタックルを交わしてゴールポスト下に滑り込みながらトライを取ります。そしてコンバージョンも易々決まり8-7の1点差となります。

 ここでABはベンチからアンドリュー・ホーとアリ・ウィリアムスを投入します。そしてピリ・ウィープがキックオフで蹴ったボールは大きすぎてサイドラインを切りなんだか嫌な雰囲気が漂い始めます。ここでピリ・ウィープはお役目終了となりアンディー・エリスと交代します。

 そしてセンターライン上でのフランススクラムになるのですが、この球場にこれほどのフランスサポーターがいたのが不思議に思うほどの大声援が沸き起こり、イヤが上にもあの07年のミシェラックがサイドラインを駆け上がり、前パスが見逃されて逆転トライとなった場面が脳裏に浮かび上がります。

 しかしこの後からABはその経験を踏まえながらも相手にボールを与える可能性のある攻撃は避けながらもフランスの攻撃に対しては確実に守っていくようになります。その中でステファン・ドナルドはアタック、そしてデフェンスタックルには大きな働きを見せます。

 そのドナルドと同じような立場の21.FrancoisTrinh-Ducもこのゲームでヒーローになることを自らのプレーでつぶします。63分にセンターライン上でフランスボールのスクラムになるとこのスクラムをフランスはABフォワードを押し切りペナルティーを取ります。ここからの約50mほどのペナルティーキックを任せられたのはFrancoisTrinh-Ducだったのですが、彼のキックは大きく外れます。そしてこれがフランスにとっての最後の得点チャンスともなりました。

 フランスはこの後も執拗にアタックを仕掛けてきますが、オールブラックスも守ります。時計が70分を越える辺りからフランスはボールを持つとゆっくりと時間をかけてピック&ドライブで攻めてきます。これに対してABデフェンスラインは堅い守りを引き時にはデフェンスラインを押し上げていきます。そしてフランスの20回に及ぶピック&ドライブのアタックも守りきり、75分にフランススクラムからのボールが展開される所にコンラッド・スミスの果敢なタックル、そしてリッチー・マッコウがブレイクダウンへとすばやく飛び込んでいきボールを奪い取ります。この際マッコウは頭を押さえうずくまる姿が映し出されひやりとしましたが、彼が再び立ち上がりスクラムへと向かう姿がスクリーンに映し出されるとサポーターから大歓声が上がりました。誰もがこのゲームの行方を心配していたことがよく分かりました。

 そしてこの後ABはボールを保持して時間をつぶすことに全力を傾けます。スクラムからボールを出した後はバックスに展開せずにラック&ゴーで狭い範囲内でボールを保持します。78分堪えられずにフランスがペナルティーを犯すとキックボールでサイドラインに蹴りだし、そのラインアウトも無難にボールを保持して直ぐにモールとします。そして時計が80分を指したところでフランスの16番がこれまた堪えられなくなってオフサイドを犯します。この時点でバックスなどは両手を上げて勝利を喜ぶ姿が見られましたが、マッコウはしっかりとアンディー・エリスの肩に手をやりながらサイドラインに蹴り出すことを指示。そしてボールがサイドラインに蹴り出されたところで終了のホイッスルが吹かれオールブラックスがワールドカップを手中に収めることを確定とさせました。 

 オールブラックス  8-7 フランス (前半 5-0)

ラグビーワールドカップ・ニュージーランド決勝戦ハイライトビデオはこちら
http://www.rugbyworldcup.com/rugbytracker/match=11235/video.html

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